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3/11Day#1HIP HOP/R&B |
ヒップホップの魅力のひとつに敷居の低さや間口の広さを挙げることができる。ギターやベースが弾けなくても、多少音痴でも、自分の思ったことに 韻を踏みつつ 調子を付けて言えば、それが「ラップ」の始まりになる。ラップ、DJ、グラフィティ、ダンスという四大要素から成り立っているヒップホップ・カルチャーだが、DJだって二台のターンテーブルがあればできるし、グラフィティもストリートの壁に落書きしたことから始まった。ダンスだって己の体ひとつで表現できるものだ。つまり、ヒップホップというカルチャーには誰もがカジュアルに始められる「手軽さ」がある。けれども、親しみやすい反面、他から頭ひとつ抜け出すためには、より強烈な「個性」や「スタイル」、そして「自己発信していくための独自のクリエイティヴィティ」を求められるのもヒップホップの特徴だ。今回のイベントのキーワードは「インディペンデンス=独立・自立」。あらゆる音楽ジャンルの中で、それを一番求められ、尊重され、体現しているのはヒップホップといっていいだろう。 | ||
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一夜限りで20組以上ものアーティストが集った今回のイベント。出演者の多さもさることながら、前述のヒップホップを構成する4つの分野で活躍するアーティストが参加したことが、まずは最大のトピックだ。当日のプログラムは、開場時からDJがレコードをスピンし、続いてライブがあり、その途中にダンサーが出演するという流れ。入り口やバーカウンター、メインステージ横にはグラフィティを担当するTOMI-E とDRAGON の作品が展示され た ( TOMI-Eが手掛けた 「池袋ウエストゲートパークSP」で使用された軽トラもあった) 。更にTOMI-E はライブ開始と同時に、屋外特設テント内でまったくの白地にスプレーを吹きつけライブ・ペインティングしていった。また、メインホール以外にプールサイドでも常にDJがプレイ。観客は至るところで、さまざまなヒップホップ・カルチャーと接せられる会場となっていた。 | ||
メインはやはりライブ・アクトということになるのだが、なかでも観客の注目度が一番高かったのはDef Tech。メロディアスなラップとフレンドリーなメッセージ性で、インディーズながら現在 20 万枚 を超え る (3月末現在) CDセールスをあげている2MCグループだが、実際、フロアからは嬌声があがるほどの盛り上がりをみせた。また、中盤に出演したURBARIAN GYMも、その独特の個性を存分にみせつけるステージを展開。URBARIAN GYMとはZEEBRA 、UZI、KM-MARKITなどを擁するクルー で、若きラッパー志願者を門下生として入れ、フリースタイルの練習をさせるなど、いわゆる叩き上げシステムを採っている。そんな彼らのステージ中、観客のひとりが飛び入りでフリースタイル合戦に挑むというハプニングがあったのだが、彼らはそれをいとも簡単にフリースタイルで斬って交わし、一方で、その飛び入り者の勇気と根性にリスペクトを送るという余裕をみせてくれた。その場面にこそ、ヒップホップ・カルチャーが持つ「手軽さ」と「自立」の両要素がグッと凝縮されていたように思う。 | ||
夜中の長丁場のイベントということもあってか、観客 の体力も厳しい 状態になってしまったライブ終盤。出番を控えたラッパ我リヤのQにステージ横で声をかけると「俺は客がひとりでも1000人でも、変わらない“気”でやるんで」と、目の奥をギラリと鈍く光らせ、“絶対ツブされない”という「気構え」と“どういう条件下でも己を発信する”という「信念」をみせてくれた。それもまた、ヒップホップに欠かせない重要なアティテュードである。 この日は、さまざまな個性を持ったアーティストが一堂に会し、ヒップホップ・カルチャーが持つ多彩な側面が体験できたが、それと同時にそのカルチャーが持つ内面性すらもいろいろなカタチで体感できたイベントだった。 (猪又 孝) |