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independence-d 2006
CLUBMUSIC DAY
STREETROCK DAY
SHOCKROCK DAY
 3 日間に亘って開催された『 independence-D 』の最終日は、ロックの攻撃性やシアトリカルなライヴのあり方、非日常的な空間演出といったものを追求するさまざまなバンドたちが集結した SHOCKROCK DAY 。事前にチケットが完売していた事実からも明らかな通り、当日は開演前から超満員の盛況となった。

SPADE STAGE のオープニングを飾ったのは蜉蝣。近年では欧州でのライヴ活動も定例化しつつあるこのバンドは、国外ではむしろ既成のジャンルにとらわれない評価を集めつつあるのに、日本国内では相変わらず“ヴィジュアル系”の枠内のみで語られがちな傾向にある。それは、トップバッターとしての重責を見事に果たした彼らに限らず、その後同じステージに立ったシド、メリー、ムックといったバンドたちにも通ずる現状ではあるが、通常は同類項とされているバンドたち各々の特性を見極めることができるのも、こうした環境設定によるイベントならではの面白さだろう。実際のところ、いわゆる固定層やその周辺のファン以外の観客がどれほどそうしたバンドたちのライヴを観たかについては確かめようもないが、ロック・バンド然としたたたずまいと独自性との双方を見せつけたムックとメリーは、間違いなくこの日のベスト・アクトとして数えられるべきである。また、シド、 Kannivalism のパフォーマンスからは、日本のロックが従来とは異なる次元へと可能性を広げている現実を感じさせられもした。

 そんななか、たとえばヴィジュアル系バンドたちからもリスペクトを集める BALZAC の発する贅肉のそぎ落とされたサウンドには説明不要のクールさがあったし、もはや老舗と呼ぶべき PULLING TEETH のプリミティヴなロックの手ざわりとむきだしの激情、ヴォーカリスト交代劇を経た現在も揺るぎない UNITED の重量級鋼鉄音にも、“時の試練”に打ち勝ってきた者たちだけが持ち得るはずの圧倒的な説得力を感じずにはいられなかった。 Boris 、 Church Of Misery の醸し出す歪んだ空気の濃密さ、 YOUTHQUAKE の筋金入りの強靭さについても同様のことが言えるだろう。

 さらに、国外からの参戦者たちも強烈だった。ノルウェーの新進バンド、 SILVER は、昨今目立つ“北欧バッド・ボーイズ系”ともゴシック風味のバンドたちとも一線を画すパンキッシュな演奏で、先入観も予備知識も持たない観衆から歓声を集め、アメリカの INTO THE MOAT 、デンマークの HATESPHERE は、まるで UNITED に真剣勝負を挑むかのような気合の入った演奏ぶりで全力疾走した。そして今回のイベントの最終場面を飾った The RASMUS は、実に淡々としたステージ進行でありながらも、きわめて安定度の高い演奏とヴォーカル・パフォーマンスをもって哀愁味漂う彼らならではの名曲たちを連発し、場内の合唱を誘った。目当てのバンドをすべて観終えた観客が The RASMUS を観ずに退場してしまったことを責める権利は僕にはないが、少なくとも、 1 曲でも彼らの演奏を聴いたならば誰もが最後までその場に居続けることを望んだことだろう。また、終演後のバックステージでは、彼らとムックのメンバーたちが双方の健闘を称えあい、交流を深めあう実に微笑ましい一場面もあった。

 文字通りの大盛況となったこの SHOCKROCK DAY 。敢えてひとつだけ注文をつけるならば、今後、この画期的なイベントが回数を重ねていくなかで、単純に“お気に入りのバンドを観る”ためではなく、“自分にとって新しいフェイヴァリット・ミュージックを見つける”ために会場に足を運ぶ人たちの割合が高まっていくことを望みたいところである。

TEX :増田 勇一
実質上のメインステージといえるスペードステージには、蜉蝣やシド、メリーなど、いわゆるヴィジュアル系と分類されるバンドが揃っているのだが、そこに日本が誇るヘヴィ・ロックの雄ボリスやホラーパンクのバルザックが普通に並んでいるところが本イベントの面白さだ。銅鑼を打ち鳴らして暴走の限りを尽くしたボリスのプレイは特に凄まじく、ざらついた轟音なのにウエットな後味が残るサウンドは、広い会場を丸呑みにする大蛇のようであった。また、トリの手前に現れたムックはメタル色の強いセットリストで一気に勝負をかける。一般的には彼らもビジュアル系の範疇で括られるのかもしれないが、音の重たさと殺傷力に関していえば、たとえばクラブステージに出演した本格派メタル・バンドと比較してもまったく遜色のない出来だったといえよう。最後のラスマスもかなりの好演だったが、客席とバンドが一体になった爆発力は間違いなく彼らがトップであった。
メインと入れ替わりで進行するハートステージには個性派が勢揃い。北欧からの刺客シルバーがグラマラスに魅せたあとは、日本サイコビリー界の大将、バトル・オブ・ニンジャマンズがダンサーを引き連れてド派手に登場する。ビジュアル系目当てのギャルに向かって「見たいのは次だろうけどな、オジサンにも付き合え!」と説教し、そのまま強引にノセてしまう手並みにはナイス・エンタメ賞を差し上げたい。サイコビリーとヘヴィメタルを一気に攪拌させて駆け抜けるプリング・ティースのスピード感は実に爽快だったし、意地のスラッシュ・メタルも叩きつけたユースクエイクの底力も素晴らしかったが、そういうバンドに挟まれていたからこそ、時間を止めるほどまったりしたストーナー・ロックを聴かせるチャーチ・オブ・ミザリーの異形ぶりが際立っていた。始まりも終わりもない世界を遊泳するようなヘヴィ・サウンドに、未体験の興奮を覚えた人は数限りないだろう。
密室性の高いダイアステージは出演バンドのバラエティも一番豊かなようで、デジロックにパンクにロカビリー、メタルやトランスやフュージョンに至るまで何でもアリ。中でも印象深かったのはピースフルな笑顔がこの日のメンツの中では異色だった all O.K.、ヤケクソじみた暴走ロックンロールをぶちかまし最後にはギターを完全破壊してしまったステューピッド・ベイビーズ・ゴー・マッド、轟音の中にも大人の貫録が漂っていたエターナル・イリジアム、ラスマスの裏で怒濤のデスメタル/スラッシュをカマしていたドイツのデッドロックなど。どちらかといえば手狭なステージ。すべてが終わったあとには、むせ返るほどの湿気と熱気が渦巻いていた。
野外ならではの気持ちよさが味わえるクラブステージには、その解放感と反比例するように密度の濃いラウド系バンドが集結。クラックスがコテコテのゾンビメイクで先陣を切ったあとは、より熱くパンキッシュなサイコビリーを聴かせるロビンが大暴走。威勢の良さもさることながら、盛り上げるところはきちんと盛り上げるフックの作り方も一流であった。続くスタッブ・ブルー、エッジ・オブ・スピリッツがサムライ魂に基づく爆音をぶちかませば、お次は海外勢がさらなる轟音を塗り重ねてくれる。メタルの様式美に基づいたアナリオンの美しき整合感と、無秩序の極みを行くイントゥ・ザ・モートのカオティック・サウンド。そして重戦車のような猛アタックで客席全員にヘッドバンキングをさせたヘイトスフィアのスラッシュ・メタル。新旧3世代がうまく並んだこの流れは、ヘヴィ・メタルという音楽の神髄と、その絶え間ない進化をわかりやすく示す好例であったと思う。
TEXT : 石井 恵梨子