佐藤「大衆音楽の発展に貢献したり、寄与してきた方々のなさってきた仕事にスポットをあてて、敬意の念を払い、それらの仕事を音楽関係者だけでなく世のなか一般に、広く後世に伝えていこうというのが『音楽主義AWARD』のそもそもの主旨です。音制連というのはシンガーソングライターやバンドのパートナー(事務所)が中心で、もともと古い権威に反発している人たちが作ったという側面もありますから、権威的なことはいらないという声もありますが、音制連20周年ということで、日本のポップスやロックがどういう人たちに支えられて成長してきたのか、長い間音楽の裏方をやってきた人たちにも励みになるよう、彼らにスポットをあてていきたい。『レコード大賞』などと違って大仰なものではないし、選考委員のみなさんもボランティアでやっていただいています。小さくても心のある賞だと言われるように育っていければいいと考えています」
丸山「よくわかりました。賛同します」
佐藤「そこで今回は何人に賞を差し上げるのか、私は複数の人に差し上げたいと提案します。先日の第1回の選考会で19名の候補者があがっていますが、大きく3つの分野を想定したいと思います。ひとつは広義の意味での音楽制作、つまりプロデューサーやマネージャーなどアーティストを発見する、育てるというところを含めた音楽制作者。2つめに音楽を創る上で欠かせない技術者。レコーディングでいえばエンジニア、コンサートでいえば舞台監督や照明のプランナー、美術など。3つめが、ライブ会場やCDショップ、メディアなど、音楽を世の中に伝える人たち。この3部門に分けたほうが考えやすいと思います」
司会「選考の進行からですが、3つの部門というのは部門賞を作るということではありません。あくまでも選考の考え方で、賞は『音楽主義AWARD』です」
朝妻「ということは各部門から1人ずつ選ばなくてはならないということではない?」
佐藤「そうです」


丸山「中村とうようさんは“俺は辞退する”って言いそうなんだけど(笑)、やっぱり『ニューミュージック・マガジン』がなかったらそのあとの音楽ジャーナリズムは全然違うものになったと思うんだよね。『ニューミュージック・マガジン』からライターもいっぱい出たし、音楽ジャーナリズムを確立したという意味では受賞者に中村とうようさんを入れたい」
高橋「とうようさんは音楽評論家としての業績もすごいんですがやっぱり編集者として優れていた」
能地「私たち(ライター)の元祖」
高橋「とうようさんはライターを育てる才能がすごかった。たてつく人でも使うでしょ(笑)。小倉エージさんにしてもとうようさんと全然指向が違うにもかかわらず使う」
能地「徒弟制度みたいなものがない文化を創り出した」
朝妻「とうようさんは欠かせないな」
丸山「映像が出て来る前の黎明期に音楽ジャーナリズムを作った。『野球の殿堂』でも、新庄を先に入れて三原・水原を入れないわけにはいかない。『ミュージック・マガジン』から始まってるからね」


古賀「エンジニアというのは裏方的な仕事をしていますから、こういった賞でひっぱってあげたいですね」
能地「70年代の終わりぐらいにCBSソニー出版から吉野金次さんや細野晴臣さんたちの語り下ろしのシリーズ本が出て、それがエンジニアという仕事をわかりやすく紹介した初めての本だったと思います。今、40歳過ぎのエンジニアに訊くと、その本を読んで東京に出てきたとか、専門学校で読んだという人が多いんですね。吉野さんがエンジニアのオリジネイターというイメージがついているのもその本の影響かもしれない」
佐藤「吉野さんが最初のフリーランスのエンジニアかどうかは別にして、実際に今のスタイル、アーティストとエンジニアが一緒にスタジオで音楽を創るということを始めたのは、間違いなく吉野さんが最初ですね。バンドの一員のようになって録音からアレンジ的な仕上げもミックスもやるというのは吉野さんが先駆者なので高く評価したい気がします」


朝妻「プロデューサー部門には大森昭男さんを推したいんだよね。CMの世界に大瀧くんや細野晴臣くん、山下達郎くんを連れてきた」
丸山「プロデューサーとして、大森昭男さんは“いいもの”と“売れるもの”を融合させたという気がするんだよね。一部の音楽ファンしか気づいてなかった才能をCM音楽として広く知らしめた」
朝妻「クライアントに対して山下くんや大瀧くんを売り込むって大変だったと思うんだよね。結果はちゃんと成功したんだけど、これは大森さんが代理店に信用があったということだよね」
高橋「ビジュアルや映像といった分野も音楽には絶対必要で、そういう意味でもCM音楽の功績をここで評価するのはいいことだと思う」
津田「音楽も音楽の狭い世界にいるだけでは広がりがないですからね。音楽を多様なメディアとつなげた功績は非常に大きいと思います」


佐藤「もう一部門は音楽を伝える“場”を作ってきた方たちですね」
能地「ロフトは今年30周年ですね。ロフトはオーナーの平野さんの色を出してきたというより、場所を提供するから、“俺はあのバンド大嫌いだけどどうぞやりなさい”とか、ご本人は好き嫌いが激しいけど場の提供に関してはものすごくフラット」
朝妻「とうようさんみたい(笑)」
高橋「『西荻窪ロフト』『荻窪ロフト』『新宿ロフト』と、ロフトが日本のロックに果たした役割はとても大きい」
能地「『ロフトプラスワン』のような場も作り、ライヴハウスをひとつのメディアにした。ネット配信もすごく早かった」
朝妻「継続は力ということですね」
津田「バランスのとれた4人ですよね」

PAGE TOP


選考委員(五十音順・敬称略)

朝妻一郎
(株式会社フジパシフィック音楽出版 代表取締役会長)
古賀正恭
(株式会社FM802 プロデューサー)
高橋健太郎
(音楽評論家、音楽プロデューサー)
津田大介
(IT・音楽ジャーナリスト)
能地祐子
(音楽評論家)
丸山茂雄
(株式会社に・よん・なな・みゅーじっく 代表取締役)

佐藤 剛
(音楽制作者連盟副理事長、
事業委員長)

司会:永田 純
(有限会社スタマック)